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ゆっくりと小説を書こう

小説の書き方やお役立ち本などを紹介するBlogです。「小瀬朧」名義で第9回ビーケーワン怪談大賞をいただきました。twitterでtwnovelや短歌などを発表中。

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投稿日:2024年05月02日(木)

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ある象徴

投稿日:2008年10月22日(水)

樹海に行ったことがある。

もちろん、入り口までだ。自らの存在を否定するために行った、というのは大嘘で、ただ紅葉の写真が撮りたくて友人と出かけたまでだ。

道の駅だっただろうか。小さな食堂と土産屋が並ぶ場所にクルマを停めた。せっかくの写真撮影だというのに、空は薄暗く曇っている。午後になって間もないが、すでに肌寒い。そこに何か精神的な作用をかんじないわけでもなかったが、たんにそういう気候なのかもしれない。

パトカーがやって来た。サイレンは鳴らしていない。パトカーはゆっくりと駐車場を通り抜けていったので、それが巡回であるとわかった。

駐車場の片隅に、くすんだ色の軽自動車があった。ボディにはまんべんなく落ち葉が降り積もっていた。いつからそこにあるのだろうか。いつまでそこにあるのだろうか。不吉な感傷にうっかりすると支配されそうになる。

その軽自動車のすぐ脇に、樹海への入り口が無造作に開かれていた。傍らには大きな地図が設置され、ハイキングコースを案内していた。樹海に、ハイキングなどという軽快なイメージは似合わない。そう思うのは偏見に他ならないが、自らを否定するために訪れる人々の足取りが重いとイメージするのもまた偏見だ。「ただ紅葉の写真が撮りたくて」という名目こそが嘘という可能性も、あると思って欲しい。私の横に、本当に友人はいただろうか。

ともあれ私は生きているので問題ない。

さて、その樹海の入り口、ハイキングコースの案内板の少し先に、一枚の看板が立っていた。あるとは聞いていたが、それは自殺防止を呼びかける看板だった。簡単なメッセージと電話番号が書かれただけの質素なものだ。事務的であるという見方もできるが、該当する人々にとっては最期の決断を迫るという最も重い意味を持っている。生きて帰る人も、帰らない人も、必ずこの看板を見ているのだ。私はしばらくのあいだ、看板をぼんやりと眺めていた。

その看板は落書き一つなく、作られたばかりのように、綺麗に、まっすぐ立っていた。




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プロフィール

HN:
小瀬朧
性別:
男性
自己紹介:
創作怪談、twitterの短文小説#twnovel、短歌など。
メールでのご連絡は benzine100@gmail.こむ スパム対策なのでこむをcomにかえてください。 


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