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ゆっくりと小説を書こう

小説の書き方やお役立ち本などを紹介するBlogです。「小瀬朧」名義で第9回ビーケーワン怪談大賞をいただきました。twitterでtwnovelや短歌などを発表中。

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投稿日:2024年11月22日(金)

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悪夢はどこからやってくる

投稿日:2008年09月15日(月)

毎日悪夢の連続なんだけれども、今日は酷かった。自分の夢で吐き気がした。

俺は女と一緒にいた。ショートヘアーの小柄な女で、カーキ色の作業着のような服を着ている。年齢は20代にも見えるしそれ以上にも見えないことはない。俺はその女と一緒にどこともわからない建物の廊下を歩いていた。非常に嫌な気分だった。ベニヤ板で作ったような粗末なドアがあった。女がドアを開けると、狭い部屋があった。部屋の中にはスチールの事務机が一つと、背中を向けたスーツ姿の男が一つあった。その男の姿をしたモノは首にロープをかけたまま天井からつり下がっていた。

女は死体芸術家だという。

これはステキなんですよ、とスーツ姿の男をトンと押す。ゆっくりと回転しながら正面を向いた男の、おそらくは顔だと思われる部位は、無残にも膨れあがり歪んでいた。俺は生理的な恐怖を感じた。少しでも触れば内部に充填されているドロドロの液体が強烈な臭いとともに噴き出してくるようで恐ろしかった。俺は逃げ出したかったが、女の何か魔術的な力がそれを許さなかった。だから、夢からも覚めなかった。

女に連れられ別の場所へと向かう。ここは死体がかつて生きていた世界を想像し、死体でもって彼らの生活や最期を再現しているのだという。それが彼女の芸術だった。今歩いている場所はいつしか廊下からアスファルトに変わっていて、巨大な筆で描いたような黒く長い線が緩やかにのびている。筆の役割をしたモノは、人間だ。線の終着点には両足だけが原型をとどめたそれが一台のクルマに挟まったままになっていた。アスファルトよりもドス黒いこの線も、描かれた瞬間だったなら、まだ真っ赤だったのだろう。

次に訪れた場所は、図書館だった。柔らかい午後の光が差し込む静かな図書館だった。ここに死体は、ないらしい。悪夢からの解放を予感した俺に、女は一冊の本を差し出した。粗末なカバーはわら半紙のようで、白い紙が栞がわりに挟まっている。そのページを開くと、死体写真だった。最初に見たスーツ姿の縊死体がモノクロ写真になっている。俺は本を閉じた。女はもっと見ろという。まだまだ、ここにはたくさんあるのだから、と。

ようやく目が覚めた。

ここはたしかに俺の部屋だ。体中が痛い。変な姿勢で寝ていたから悪夢を見たのだろう。夢だとわかっても、まだ心臓の鼓動は早い。布団に入ったまま、なんとなく部屋の隅に目をやるとそこにはロープを首にかけた男の姿が……見えそうで怖かった。なにやら空気に不吉なものを感じた。自分の部屋なのに怖くて堪らない。部屋から逃げ出して両親のもとに行こうとも思ったが、自分の年齢を思い出すと、再び布団に潜り込んだ。

俺は女と一緒にいた。ショートヘアーの小柄な女で、カーキ色の作業着のような服を着ている。女は俺を待っていた。もう一度最初から見ますか、とあの粗末なベニヤ板のようなドアを指し示している。手には、わら半紙のようなカバーに包まれた本を持っている。なるほど悪夢とはこういうものなんだな、と夢のなかの俺は納得しかけていた。終わらないのだ。終わらないから、悪夢なんだ。そこにはストーリーもなければ解決もない。この世界に捉えられたまま彷徨い歩くしかないのだ。

長い夢だった。抱き合ったまま黒こげになっている親子や、無限に落下する肉片や、お遊戯室のなかで遊びながら弾け飛んでいく子どもたちや、ビニール袋に包まれたまま水中に沈むサラリーマンや、手足あるいは頭の欠損したまま行進を続ける軍服たち。およそありとあらゆる死がそこには再現されていた。それが女の芸術だった。

なぜ俺はこの死体芸術家の女に魅入られたのだろうと考えた。なぜこの女の作り出した最悪のギャラリーにいなければならないのだろう。いや、なぜ俺は俺の作り出しているはずの夢に苦しまなければならないのか。抑圧された自殺願望なのか。あるいは俺が今まで妄想のなかで殺し続けてきた人間たちの怨念なのか。夢のなかであるにもかかわらず、俺は考えていた。もしくは……現実の俺はすでに死んでいるのかも知れないとも思った。この眠りにつく前に、俺は俺の首についにロープをかけてしまったのか。そんな不安にかられたとき、ああなんだ、俺は観客じゃなかったんだなと悟った。俺もまた、この死体芸術家の作品の一つだったのだ。

女がじっと俺を見ていた。





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コメント

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すげっ

すごい夢ですね、
小柄な女とか図書館は本物でしょう。
そこから無意識に脳が連想していった結果なのでしょう。小生占いでした。

>>小生さん

小生さんこんにちは!
いつもコメントありがとうございます。

風邪をひいたり熱が出たりすると怖い夢をよく見ます。
体の調子と心ってけっこう関係しているのかもしれませんね。

無題

一遍のショートショートを賞味したような感じですね。
 ダークな色合いから、星新一というよりは、阿刀田高を思い浮かべました。

>>uenoさん

uenoさんこんにちは!
いつもコメントありがとうございます。

なぜ自分自身が嫌がるものを夢に見るのか不思議でなりません。
物語にしてしまうことで一応の解決(オチがある=終わりがある)はしているつもりなのですが、素材となった夢はただ恐怖や嫌悪が塊となっているだけだったりします。
あれが自分のなかにあると思うと昼寝も怖くてできません。

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小瀬朧
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