投稿日:2009年01月02日(金)
いろいろ、見てきた。
【太歳を掘る】
そこは白い墓石が櫛比する墓地だった。青空の下、幾人かの子どもたちが無邪気に遊んでいる。私はその様子を傍らから眺めて微笑んでいた。
子どもたちは土を掘り始めた。墓地でそんなことをするなんて、子どもたちはまだ恐れを知らないのだなと黙ってみていた。子どもたちの掘る穴はみるみるうちに大きく、深くなっていく。
一人の子どもが何かを掘り当てた。それは白くてぶよぶよするモノだった。表面には無数の黒い点がついている。傷つけないようにそっと土をどけていくと、それは子どもの頭ぐらいの大きさで、リンゴのような形をしたモノだった。子どもたちは歓声をあげた。
それは指で触ると作りたてのゼリーのように全体がぶるぶると震える。子どもたちが私に聞いてきた。
「おっちゃん、これなあに」
「それは、太歳かもしれないね」
太歳は、たしか中国の伝説に登場する謎の生命体だったと思う。
「これってなんかヤバイの?」
「……大丈夫だよ」
私は嘘をついて、子どもたちの好きにさせることにした。
誰かが棒でつつくと穴が開いてしまった。しかし、その穴は瞬く間に塞がってしまい、かわりに奇妙な盛り上がりが生まれた。盛り上がりに切れ目ができ、そこからゆっくりと開きはじめ、それは一つの目になった。
太歳の目がじっとこちらを睨んでいる。
【ロープ】
巨大な倉庫のような薄暗い場所にいる。立ち並ぶ深緑色のスチールラックにはドライバーやペンチ、ノコギリやトンカチといった日曜大工の用品が大量につり下げられていた。それぞれに値札がついているので、倉庫のようではあるが、ホームセンターなのかもしれない。人の気配はまるでなく、ただ寂寥感だけが充満している場所だった。
そのとき携帯電話がなった。非常に古い機種だった。10年ぐらい前に初めて買った携帯だ。
「あのね、明日学校でロープが必要なの。なんとかならないかな」
懐かしい女の声だった。高校時代、同じ合唱団にいたSだ。10年以上も連絡をよこさなかったくせに、こういうときだけは頼ってくるのかと私は気分を悪くした。
「今、ちょうどホームセンターにいるんだ。目の前にロープがたくさん売っている。キミも買いに来ればいい」
必要なら自分で買いに来いと私は思っていた。携帯電話からは何か返事があるのだが、すでに理解できない言語となってしまっていた。
私は眼前につるされた緑色のロープの束を眺めながら、Sが来るのをずっと待っている。
【排斥】
教室で突然、覚醒した。自分を縛り付けていた呪術のような緊縛から不意に解き放たれた。
そこは懐かしい中学の教室であったが、皆がしていることは、スケッチブックにクレヨンを使ってのお絵かきだった。その姿は、保育園のときの記憶に合致している。一心不乱にクレヨンをこすりつけている同級生たちに向かって、私は一つの提案をした。
「もうあいつのいいなりになる必要はない。自分たちの力で追い出してしまおうじゃないか」
そのとき私は教壇に立っていた。同級生のはずなのに、まるで自分が教師になったような視線だ。皆が私を不思議そうな目で見る。
「あいつを追い出すための詩を書くんだ」
教室が歓声に包まれた。皆が教室の黒板や壁や窓に、思い思いの詩を書連ねていく。
おまえの瞳が美しいのではない
そこに映る空が美しいだけなのだ
そして、教室の扉が開き、あの女教師が現れるのを、皆と一緒に待っている。
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